9月13日 Vol.2253 コメの価格メカニズム

2025年産新米は、小売単価ではおよそkg900円~1,000円、5kg袋だと4,500円~5,000円になっています。
結局は昨年以上の小売価格で、報道では、とにかくコメは高過ぎるという言葉が一人歩きしていますが。
僕個人の見解とすれば、報道にかなり違和感を覚えることも多いので、コメの価格メカニズムを以下にご説明します。

2023年(2年前)コメ生産コスト平均/俵=15,944円/俵。(農水省発表)
1俵は60kgですから、生産コスト/kg=15,944/俵÷60kg=266円/kg。
この2年間、様々な価格が高騰していますから、2025年の生産コストを仮に2年前の15%アップで試算すると、266円/kg×1.15=306円/kg。(まだ2025年の生産コストは発表されていません)
農家の販売価格の主な指標であるJA概算金=28,000円/俵前後
28,000円/俵÷60kg=467円/kg
粗利益(467円/kg-306円/kg)÷467円/kg=0.35=粗利益率35%
農業のように天候他生産リスクが高い事業で、粗利益率35%は概ね妥当と言えるでしょう。(できればもう少し利益が欲しいのですが)
小売価格は、生産者販売価格のおよそ2倍になりますから、467円/kg×2倍=934円/kg
5kg袋での小売販売とすると934円/kg×5kg=4,670円。
よってこれらの数字を前提に考えると、いまの小売価格は、概ね妥当ということになると思います。
これらを無視して、あるいは知らずに、コメは5kg3,000円台でなければいけないなど言われても、それは経済合理性の話ではなく、単なる感覚論か、あるいは政治的な思惑ということでしょう。

また、このような議論をすると必ずでてくる質問が、大規模農家は平均よりも生産コストは安いはずだということです。
その通りです。
ただし、上記数字は、それら大規模農家も含めての平均値ですから、試算に採用するのは正しいと考えられます。
大規模農家の議論はもちろん大事ですし、大規模農家が日本の農業をすべて塗り替えてくれるのであればそれはそれで良いのですが、事態はそれほど単純ではありません。
よりシビアなことは、戸数ベースでは平均作付面積1.8ヘクタール以下が大多数で、その農家は平均生産コストよりもはるかに生産コストは高く、また高齢化が進んでおり、今後どんどん減少していく可能性が高いということです。
中小農家が廃業すれば大手農家が無限に農地を事業承継できるわけではありません。
農地の名義問題、飛び地問題、水の問題、労働力確保の問題、もちろん気候変動問題も含めて、様々な問題を踏まえると、大手農家も万能ではありません。
国内農業を総合的に判断すると、耕作面積も農業就労人口は減り続けており、また今後も減る見込みです。

今、コメの価格が高いと言っている場合ではありません。
いまの価格で提供してくれている農業者に、感謝すべきでしょう。
気候変動時代を迎えて、どのくらい農業の生産現場が過酷であるかを、みんなが経験し理解すべきでしょう。
いまの農業は、まさに命がけです。
世間が高い高いと大騒ぎすればするほど、農業経営は冷静さを失い経済合理性から逸脱し、農業経営はより厳しくなり、国内農業はより衰退し、中長期的に農作物価格はますます高騰していくでしょう。
僕は、いまのような農業の実態を踏まえると、劇的な制度変更や政府の財政支出など歴史的な転換をなさなければ、コメは5kg1万円時代が到来しても、不思議ではないと感じています。
今のままでは、日本の農業はモノ不足高価格時代にまっしぐらです。
もちろん、それはコメだけではなく、農作物全般に言えることです。
少々皮肉かもしれませんが、これから経営を続けられる限られた農業法人は、儲かることでしょう。
Japanese Agriculture Paradoxです。